国際移動時代におけるトランスナショナル教育の可能性と課題

教育学
4:質の高い教育をみんなに
16:平和と公正をすべての人に
17:パートナーシップで目標を達成しよう
キーワード
杉村 美紀

総合人間科学部 / 教育学科

杉村 美紀 教授

連絡先 miki-s@sophia.ac.jp

概要

ヒトの国際移動がかつてない規模で活発化している今日、従来の国ごとの教育に加え、国境を越えて展開されるトランスナショナル教育の動きが顕著になっています。そこでは学生や教職員、研究者、さらに教育機関が移動し、複数の国やあるいは地域の国際機関が協働して教育研究プログラムを展開しています。こうした文化的背景の異なる人々の交流は、各国の文化政策の展開や人材獲得競争が激しさを増す一方で、次世代を担う人々を共に育成する協力関係も生んでいます。国境を越える教育文化交流のプラットフォームと、それを土台とした学びのネットワークを構築することは、教育の根源にある人間の尊厳を重視するうえで重要な機能を果たすと考えます。本研究では、こうしたトランスナショナル教育の可能性と課題を、比較研究の方法論を用いながら比較教育学および国際教育学の新たな研究領域として考察します。

アジアにおける高等教育の国際連携のネットワーク

今後の発展性

トランスナショナル教育の展開は、多国間による教育ネットワークを生み、様々な形態をもつ国境を越えた教育プログラムを生んでいます。ここには、学生や教職員の移動に加え、近年ではプログラムや教育機関が移動しておこなわれるもの、あるいはオンラインで教育を行い、新たな教育機会の拡充や格差の是正、さらに多文化共生に貢献するなど新たな教育の可能性を生んでいます。こうした動きは、国際社会が2030年までの目標としている持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)のゴール4(教育)でも言及されているグローバル・シティズンシップ教育(Global Citizenship Education)の展開につながるとともに、多様性の尊重が求められる中で重視される包摂性(inclusion)や公正性(equity)の課題解決にも関係すると考えます。保護主義やナショナリズムが新たな局面で登場している今日、グローバル化や国際化が議論される一方で、それぞれの事例がもつローカルな課題をどう考えるか、また従来の国民教育を軸とした教育政策に対して、個々人がもつ多様性と多文化共生実現の課題をどうとらえるか。比較教育学と国際教育学の新たな挑戦です。

関連特許・論文等

  • 杉村美紀 (2018)「グローバル化時代における国民国家と教育制度の変容―マレーシアの初等中等教育の理数科科目における教授言語問題」『上智大学教育学論集』52、上智大学総合人間科学部教育学科、65-76頁。
  • 杉村美紀編(2017)『移動する人々と国民国家―ポスト・グローバル化世界における市民社会の変容』明石書店。
  • Sugimura, M (2016)“Transformation of“Higher Education Systems in the Dynamics of Contemporary Globalization: The Case of Japan” Collins, C. Lee M. N.N.,Hawkins, J.N., Neubauer, D. E. (eds.) The Palgrave Handbook of Asia Pacific Higher Education. New York: Palgrave MacMillan, pp.183-194.
  • Sugimura, M (2015) “Circulating Brains and the Challenge for Higher Education in Japan” in Mouer R. ed. Globalizing Japan: Striving to Engage the World, Melbourne: Trans Pacific Press, 2015. pp. 70-92.
  • 杉村美紀(2015)「ヒトの国際移動と『グローバル・シティズンシップ』」『異文化間教育』42、日本異文化間教育学会、30-44頁。
  • 杉村美紀(2014)「人の国際移動と多文化社会の教育変容―多様化する国家と個人の教育ストラテジー」田中治彦・杉村美紀共編『多文化共生社会におけるESD・市民教育』上智大学出版、29-47頁
  • 杉村美紀(2013)「アジアの高等教育における地域連携ネットワークの構造と機能」『上智大学教育学論集』47、上智大学総合人間科学部教育学科、21-34頁。

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