2023.07.11
総合人間科学部 / 心理学科
山本 晶友 研究員
人は他者からの親切心による恩恵を受けると,感謝という感情を体験する。この感謝には,感謝する者とされる者の間に強固で心地よい関係を構築する機能がある (Algoe, 2012)。感謝が関係構築を促す感情ならば,より良質な恩恵をもたらしてくれる人に対してこそ強い感謝を感じるのが望ましい。しかし,人は評価の対象が一定であっても,それをとりまく文脈に存在する比較対象との対比によって評価が揺らいでしまうことがある (Hsee & Zhang, 2004)。感謝も対比の影響を受けるならば,感謝が結びつける人と人の関係性は,周囲の文脈の影響も考慮しなければならないことになる。逆に対比の影響を受けないならば,感謝には文脈に左右されずに人と人を結びつける機能があるのかもしれない。本研究では,受け取る恩恵が一定であっても比較対象となる恩恵が存在するだけで感謝の強さが変動してしまう可能性について,様々な実験的手法で検討している。現時点では,比較対象となる恩恵が存在するだけでは感謝の強さはほとんど変わらず,変わるとしても頑健ではないという知見が複数集まってきている。
この図のような現象を検討し,比較対象となる恩恵が存在するだけでは感謝の強さはほとんど変わらないことが示されてきた。
Yamamoto, A., & Higuchi, M. (2023). The effect of simulating the absence of benefits on gratitude: Prior expectations and posterior counterfactual thinking. Japanese Psychological Research, Online Version of Record before inclusion in an issue.
Yamamoto, A., & Higuchi, M. (2022). Expectation regarding benefit does not determine gratitude: Implications from an anchoring paradigm. Japanese Psychological Research, 64(3), 269–281.
山本 晶友・樋口 匡貴 (2020). 受けた恩恵の相対的な大小で感謝は規定されるのか―行動実験による検討― 上智大学心理学年報, 44, 1–16.
山本 晶友・樋口 匡貴 (2019). 受け取った恩恵の相対的な大きさが感謝に及ぼす影響―他者が受け取った恩恵を比較対象として― 感情心理学研究, 26(3), 71–77.
Yamamoto, A., & Higuchi, M. Do downward simulations increase gratitude?: A priori expectation and post hoc counterfactual thinking The 21st annual convention of the Society for Personality and Social Psychology, February 2020
Yamamoto, A., & Higuchi, M. An experimental test of relative judgment for gratitude and indebtedness: The reference point presented in the practice phase. The 20th annual convention of the Society for Personality and Social Psychology, February 2019
Yamamoto, A., & Higuchi, M. An experimental test of relative judgment for gratitude and indebtedness. The 19th annual convention of the Society for Personality and Social Psychology, March 2018
Yamamoto, A., & Higuchi, M. Relative judgement for gratitude and moushiwakenasa in Japan. The 18th annual convention of the Society for Personality and Social Psychology, January 2017
Yamamoto, A., & Higuchi, M. The relative judgement for gratitude: Relatively too small help is not a reference point. The 31st International Congress of Psychology, July 2016
山本 晶友・樋口 匡貴 他者が受けた恩恵についての情報が自身への恩恵に対する感謝および行動に及ぼす影響 日本感情心理学会第28回大会 2020年6月
山本 晶友・樋口 匡貴 恩恵受領についての事前予測が感謝に及ぼす影響―思いがけず貰えるギフトこそありがたいのか― 日本社会心理学会第60回大会 2019年11月
山本 晶友・樋口 匡貴 心的取り消しが感謝に及ぼす影響―日常的な親切場面のシナリオを用いた検討― 日本感情心理学会27回大会 2019年6月
山本 晶友・樋口 匡貴 恩恵の相対的な大きさが感謝体験者の行動に及ぼす影響―利益の生じない練習セッションを比較基準とした検討― 日本感情心理学会26回大会 2018年11月
山本 晶友・樋口 匡貴 より大きい恩恵を考えた後の感謝―8種類の恩恵シナリオを用いた検討― 日本社会心理学会第59回大会 2018年8月
山本 晶友・樋口 匡貴 感謝体験者の感情と行動に恩恵の相対的な大きさが及ぼす影響 日本社会心理学会第58回大会 2017年10月
山本 晶友・樋口 匡貴 より大きな援助を想像した後の感謝―「もっと助けてくれると思っていたのに」― 日本心理学会第81回大会 2017年9月