病棟の組織風土診断プログラムの構築

看護学
キーワード

総合人間科学部 / 看護学科

塚本 尚子 教授

概要

私たちは生涯の多くの時間を、仕事に費やしています。その仕事の場が豊かなものであれば、個人は成長し、そこで生み出されるものは様々な形で社会に還元されていきます。企業における組織風土は比較的古くから研究され、良い組織風土を作り成果を上げるべく努力が重ねられています。一方、医療の場は非常に専門性が高く、また閉鎖性が高かった結果、これまであまりその組織風土には目が向けられてきませんでした。

我が国には150万人という看護職が働き、日々人々の健康を支える努力を重ねています。超高齢社会を迎え、人口が減少していく我が国の状況において、人々の安心で幸せな生涯を支えるにあたって今後ますます重要性を増していく職業のひとつです。しかし、看護の場は職員の流動性がきわめて高く、専門職でありながら離職率が非常に高いことが問題になっています。看護職の離職の原因は単に仕事がハードだからという理由ではないように思います。誰もがそのことは理解した上で、それでも人々の役に立ちたいと願って志望した職業なのです。しかし働き続けていくためには、良い組織風土が必要です。多くの看護職は、病院の病棟に所属し、その病棟を管理しているのは看護師長です。これまでの企業を対象とした組織風土研究では、よい組織風土作りには管理者のリーダーシップやマネジメント力の重要性が指摘されてきました。看護の場は、病棟の独立性が非常に高く、病棟単位での組織を見ていく必要があると言われています。このことは逆に考えると比較的小さな規模の中での組織改革が可能であることを意味していると言えます。

そこで看護師長を中心にどのようにすれば、病棟において良い組織風土が作れるのかを考え続けています。これまでのいつくかの研究成果から、組織風土において看護師長がいかに重要な役割を果たしているかが明らかになってきました。しかしながら看護師長は、看護のエキスパートではあっても、組織風土作りについては試行錯誤しながら奮闘しています。そうした部分に役立てるように、看護師長が自分の病棟の特徴を入力することで、その強みと強化すべき点が明らかになる診断ツールを開発することを目指しています。他者に評価されるのでなく、自分で評価することができれば、看護師長が主体となって、自ら率いているチームメンバーの力を使って、組織の活性化を図ることが可能になると思います。それによって、さらにチームメンバーも積極的に組織づくりに参画するという良い流れを作ることができるのではないかと考えています。自律性をもった看護の場こそが、主体的な看護の問題意識を引き出し、良い看護ケアを創造することへと結びついていきます。私の研究は、そのための仕掛けづくりを目指した研究です。

関連特許・論文等

関連する論文
1.塚本尚子1998 看護婦のストレス コーピングと仕事適応, 東京都立医療技術短期大学紀要, 11, 83-89
2.塚本尚子,浅見響 2007 病棟の組織風土が看護職のバーンアウトに及ぼす影響についての検討, 健康心理学研究,20( 1), 12-20.
3.塚本尚子,野村明美2007 組織風土が看護師のストレッサー, バーンアウト, 離職意図に与える影響の分析, 日本看護研究学会雑誌 30(2), 55-64.
4.塚本尚子,結城瑛子,舩木由香,田中奈津子,山口みのり 2009 組織風土としての看護師長のあり方が看護スタッフのバーンアウトに及ぼす影響, 32( 5), 105-112.
5.塚本尚子,舩木由香 2010 新卒看護師のパーソナル・コンストラクトが適応プロセスに及ぼす影響 : Role Construct Repertory Test (RCRT) による検討, 日本保健医療行動科学会年報, 25, 241-256.
6.塚本尚子,野村明美,舩木由香 2017(掲載予定)1970 年代の看護師長の語りから知る、よい組織風土の形成と維持しくみ,質的心理学研究.
7.笹本麻美, 塚本尚子. エンパワメント構造とキャリアデザインが中堅看護師の精神的エンパワメントに及ぼす影響. 日本看護管理学会誌. 2020. 24. 1. 154-163

シェアする