分子多電子励起状態の生成と崩壊

ライフサイエンス 装置・デバイス 基礎・理論
キーワード
小田切 丈

理工学部 / 物質生命理工学科

小田切 丈 教授

概要

分子の高い励起状態(下図“AB**”)は、短い寿命の後に崩壊し、低エネルギー電子、活性ラジカル、イオンなど、反応性の高い粒子を生成します。従って、物質の放射線作用を理解するには、分子高励起状態の生成と崩壊のダイナミックスを知ることが重要です。また、様々な反応の中間状態として重要な役割を果たす分子多電子励起状態のダイナミックスは、少数量子多体系として物理的にも興味深い研究対象です。私たちは、分子高励起状態の中でも、特に、多電子励起状態に着目し、電子衝突、および、放射光といった励起源を利用して振動子強度分布などの物理量を測定することにより、多電子励起状態の分光学的、動力学的研究を行っています。

応用例

  • 分子多電子励起状態の生成・崩壊ダイナミックスについての知見は、プラズマ、上層大気、星間雲などにおける反応理解のための基礎情報として重要です。
  • 生成したラジカル、あるいは、ラジカルから放出される紫外光を取り出し、表面の改質などに利用できる可能性があります。最近では、水素分子から解離生成した準安定水素原子H(2s)を、電子、イオンを除いたうえで、10cmほど離れた場所まで取り出すことに成功しました。分子の励起エネルギーを制御することにより、準安定原子H(2s)の運動エネルギーをある程度制御することも可能と考えられます。

今後の発展性

大きな運動エネルギーで飛び出してくるラジカルを検出することにより、直線分子に限れば分子軸の空間的配向を決めることができます。この技術を利用し、分子軸の向きを規定した衝突物理研究を行うことが可能と考えられます。また一方、上記「応用例」に示したように、分子多電子励起状態を活性ラジカル発生源としてとらえることにより、種々の応用への転用が期待されます。

研究設備

回転台付気相電子分光装置、回転台付放射光実験装置

共同研究・外部機関との連携への期待

物性研究のための新しい分析技術、表面改質法の開発

関連特許・論文等

T. Odagiri, Y. Kumagai, T. Tanabe, M. Nakano, I. H. Suzuki, M. Kitajima and N. Kouchi, “A new spectroscopic method for resolving the electronic symmetry properties of the highly excited molecules produced in photoexcitation”, Rev. Sci. Instrum., 81, 063108(6pp)(2010)

T. Odagiri, Y. Kumagai, M. Nakano, T. Tanabe, I. H. Suzuki, M. Kitajima and N. Kouchi, “Formation of metastable atomic hydrogen in the 2s state from symmetry-resolved doubly excited states of molecular hydrogen”, Phy. Rev. A 84, 053401(8pp)(2011)

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