魚類繁殖戦略の進化

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3:すべての人に健康と福祉を
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14:海の豊かさを守ろう
キーワード

理工学部 / 物質生命理工学科

川口 眞理 准教授

概要

生物は、38億年という長い歴史の中で誕生し、さまざまな環境に適応しながら多様な種へと進化してきました。その過程で現れた「からだのかたち(表現型)」の変化は、どのような遺伝子の変化によって生み出されたのでしょうか?そのような着眼点で研究対象としているのがタツノオトシゴを含むヨウジウオ科魚類です。ヨウジウオ科魚類は進化の過程でオスが育児嚢という特殊な器官を獲得しました。メスは育児嚢内に卵を産み、オスが稚魚になるまで育児嚢で保護してから出産します。ヨウジウオ科魚類内での進化というわずかな時間で、育児嚢という新奇器官ができ、体の表面に卵をくっつけるだけの単純な形態から、タツノオトシゴに見られるような最も発達した袋状の形態にまで多様な進化をとげました。

脊椎動物間では多くの遺伝子が共通に存在しているにも関わらず、なぜ進化の過程で新奇な器官を作り出せたのでしょうか?既存の遺伝子の発現が変化して、新しい器官を作り出したのかもしれません。あるいは、新しい遺伝子が誕生して、新しい器官を作るようになったのかもしれません。私たちは、このどちらもがヨウジウオ科の進化過程でも起きたと考えており、育児嚢の発生過程や進化過程を明らかにするために研究を進めています。 比較生物学的な視点から、ヨウジウオ科魚類に限らず、ウナギの乾燥耐性機構やメダカ属魚類の淡水と海水への適応機構、魚類の孵化に着目して卵膜と孵化酵素の分子共進化に関する研究など様々な魚種を用いた研究も展開しています。

応用例

魚類から抽出した生理活性物質を用いた医薬品への応用、例えば、抗炎症作用をもつ物質の探索と機能解析が可能です。

大腸菌発現系を用いた、活性を保持したリコンビナントタンパク質の作製により、例えば、医薬品開発や機能解析への応用が可能です。 様々な抗体の作製を行っており、タンパク質の局在解析や診断薬開発への展開が期待できます。

今後の発展性

育児嚢形成に関わる遺伝子の機能解析を通じて、器官形成の進化的メカニズムの理解が進むことで、発生生物学や進化生物学の新たな知見が得られます。

魚類由来の生理活性物質の探索は、創薬や再生医療への応用可能性を秘めており、産業界との連携による実用化が期待できます。

比較ゲノム解析やトランスクリプトーム解析の技術を活用することによって、他の魚類や脊椎動物への応用が可能です。 科学コミュニケーションの題材としても有望です。

研究設備

ミクロトーム、クライオスタット、蛍光顕微鏡、実体顕微鏡、共焦点レーザー顕微鏡、分光光度計、高速微量遠心機、クリーンベンチ、サーマルサイクラー、イメージアナライザー、HPLC

共同研究・外部機関との連携への期待

タンパク質の精製や活性測定などの技術提供が可能です。これらの技術は、機能解析や創薬研究などに応用できます。 本研究は、分子生物学・進化生物学・薬理学など多分野との連携が可能です。特に、生理活性物質の探索や機能解析に関する共同研究を歓迎します。

関連特許・論文等

Mari Kawaguchi, Wen-Shan Chang, Hazuki Tsuchiya, Nana Kinoshita, Akira Miyaji, Ryouka Kawahara-Miki, Kenji Tomita, Atsushi Sogabe, Makiko Yorifuji, Tomohiro Kono, Toyoji Kaneko and Shigeki Yasumasu. (2023) Orphan gene expressed in flame cone cells uniquely found in seahorse epithelium. Cell and Tissue Research, 393: 47-62. DOI: 10.1007/s00441-023-03779-1

Akari Harada, Ryotaro Shiota, Ryohei Okubo, Makiko Yorifuji, Atsushi Sogabe, Hiroyuki, Motomura, Junya Hiroi, Shigeki Yasumasu, and Mari Kawaguchi. (2022) Brood pouch evolution in pipefish and seahorse based on histological observation. Placenta, 120: 88-96. DOI: 10.1016/j.placenta.2022.02.014

Mari Kawaguchi, Yohei Okazawa, Aiko Imafuku, Yuko Nakano, Risa Shimizu, Reiji Ishizuka, Tianlong Jiang, Tatsuki Nagasawa, Junya Hiroi, and Shigeki Yasumasu. (2021) Pactacin is a novel digestive enzyme in teleosts. Scientific Reports, 11: 7230. DOI: 10.1038/s41598-021-86565-9

Mari Kawaguchi, Ryohei Okubo, Akari Harada, Kazuki Miyasaka, Kensuke Takada, Junya Hiroi, and Shigeki Yasumasu (2017) Morphology of brood pouch formation in the pot-bellied seahorse Hippocampus abdominalis. Zoological Letters, 3: 19. DOI: 10.1186/s40851-017-0080-9

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