2023.07.18
アンモニアは常温で8.5 atmという低い圧力で液化できることから,輸送・貯蔵の点で水素よりも有利である.このため,アンモニアは近年,水素エネルギーキャリアとして注目されているが,カーボンフリー燃料として直接燃焼させることも可能である.実際に,SIP「エネルギーキャリア」プロジェクトでは50 kW級アンモニア専焼マイクロガスタービンが開発されている.一方,移動体である自動車エンジンでもアンモニアを燃料として利用することが検討されているが,定置型燃焼機関に比べて解決しなければならない課題が多く残されている.アンモニアを燃焼させる場合,着火性および燃焼性の低さに加えて空気過剰下の燃焼では多量のNOが排出されることが課題となる.これらは,特に自動車エンジンの開発においては重要な問題であり,それを克服するには着火遅れ時間や燃焼速度等の基礎燃焼データ収集のための実験と実験データに基づく反応モデルの構築が必須となる.
着火遅れ計測およびそれを再現する反応モデルに関しては数気圧という低圧での報告が多い.その中でMathieu等は,高圧(30 atm)において着火遅れ時間の計測を行っている.しかし彼らの実験では,アンモニアと酸素をアルゴンで大希釈(98~99 %)した試料混合気を用いており,温度が1560~2455 Kと高く,実際のエンジン内での燃焼条件とは全く異なる.本研究では,実用性を優先して酸化剤に空気を用い,高圧かつ比較的低い温度領域(1200~1600 K)において着火遅れ時間の計測を高圧衝撃波管で行った.さらに,現在最も信頼性が高いと注目されている国産のUT-LCS反応モデルを用いてシミュレーション計算を行い,実測した着火遅れ時間と比較することにより,同反応モデルの妥当性の検証を行った.