2023.07.18
理工学部 / 物質生命理工学科
藤原 誠 教授
葉緑体に代表される植物オルガネラ色素体は、植物組織や環境に応じて複雑に機能分化します。炭酸(CO2)固定、脂肪酸合成、アミノ酸合成などの一次代謝機能、またデンプン、カロテノイドなどの貯蔵機能からうかがえるように、色素体の活動は植物の物質生産性に大きく寄与しており、色素体の分化・機能・増殖・進化に関する研究は現在、世界レベルで進んでいます。本研究室では、色素体の多様な形態と複製に着目して、分子遺伝学的、細胞生物学的研究を行っています。とりわけ、非光合成色素体に関する知見は少ないことから、蛍光タンパク質とモデル植物シロイヌナズナを活用して、花や種子などにおける色素体の振る舞いを調べています。
一方、植物が生産する二次代謝産物の多くは、特殊化した植物器官や組織で貯蔵されます。そのような植物構造では、しばしば形や内容物が周囲の細胞と異なる異型細胞(idioblast)が形成されます。異型細胞は、植物の種や器官ごとに多様に分化し、組織中で一定の分散性を示すことが知られています。本研究室では、水生植物の一種オオカナダモを対象として、その葉表皮に発生する異型細胞の細胞生物学的研究を進めています(添付画像を参照)。
モデル植物シロイヌナズナを用いて得られた基礎知見は、他の多くの植物にもあてはまることが予想されます。
一方、オオカナダモの異型細胞については、その役割は今なお不明です。細胞内の蛍光物質の正体が明らかになれば、次の細胞機能検証につながるものと考えられます。
他方、オオカナダモは理科教育における実習生物、高いバイオレメディエーション能を有する水生生物、また繁殖力が旺盛な外来生物の一種として、広く認知されています。本研究室との共同研究を通して、これらの方面へさまざまな貢献をすることが可能性として考えられます。
シロイヌナズナの研究に関しては、色素体の未知の制御機能が見出されることが期待されます。
オオカナダモの研究に関しては、共同研究の進行次第で、理科教育、環境科学、生態学の分野に発展する可能性を秘めています。
人工気象器、振盪培養器、蛍光顕微鏡、実体顕微鏡、CMOSカメラ、高速微量遠心機、クリーンベンチ、小暗室
当研究室は平成22年4月に設立されました。生物培養・顕微鏡解析・分子生物学実験の諸設備は整備されています。異分野間連携が可能なシーズを本欄で紹介致します。
1) Fujiwara MT, Yasuzawa M, Kojo KH, Niwa Y, Abe T, Yoshida S, Nakano T, Itoh RD (2018) The Arabidopsis arc5 and arc6 mutations differentially affect plasitd morphology in pavement and guard cells in the leaf epidermis. PLOS ONE 13(2): e0192380.
2) Hara T, Kobayashi E, Ohtsubo K, Kumada S, Kanazawa M, Abe T, Itoh RD, Fujiwara MT (2015) Organ-level analysis of idioblast patterning in Egeria densa Planch. leaves. PLOS ONE 10(3): e0118965.
3) Fujiwara MT, Kobayashi E, Kanazawa M, Itoh RD (2015) Observation of colorless idioblasts in Egeria densa leaves by conventional ultraviolet-excitation fluorescence microscopy. Cytologia 80: 131-2.