2023.07.18
理工学部 / 物質生命理工学科
冬月 世馬 准教授
私の長期計画の研究テーマは安定同位体および大気化学モデルを用いて惑星大気の変動と進化を調べることである。その中、中期計画と大学院研究テーマとしては物理と化学過程を用いた第一原理計算から1次元大気光化学モデルの開発とチューニングを行い、量子化学計算による温度-圧力の寄与を考慮した紫外線吸収スペクトルを求めることである。卒業研究としては長中期研究計画との連携性を持ちながら、単独性-独立性を用いた研究テーマを行っている。
1991年、フィリピンのピナツボ火山噴火によって放出された硫黄化合物10TgSが成層圏に到達しました。これらの硫黄化合物は様々な酸化反応を受け最終的に硫酸アンモニウムそして硫酸アエロゾルを生成しました(Sulfur Stratospheric Aerosols、以下SSA)。噴火から半年が経過した後も、6TgSのアエロゾルが残存したため、約4.5W/m2の負の放射強制力があったと言われています。正の放射強制力は温暖化、負の放射強制力は寒冷化を引き起こします。火山噴火によって成層圏へ硫黄化合物が到達しアエロゾルが生成されたことにより、地表面平均温度が0.5℃減少したことが知られています。成層圏アエロゾルの滞留時間は1-2年であり、ピナツボの冷却効果は速やかに薄れていきました。このことから、硫酸アエロゾルは0.75W/m2/TgSの放射強制力を持っていたと考えられています。放射強制力だけでなく、火山噴火によって生成した硫酸アエロゾルの増加が成層圏のNOxの光化学を変化させることにより、オゾン層破壊への寄与が指摘されています。成層圏硫酸アエロゾルは地球放射収支に負の影響を与えるため寒冷化要因一つとして重要です。地球温暖化対策として成層圏へ人為的硫黄化合物を注入する「ジオエンジニアリング(気候工学)計画」がノーベル化学賞受賞者であるP. Crutzen博士らにより提案されています。これは、OCS、SO2、硫黄元素の人為的投入により、地球全体的に冷却効果を持たせます。しかし、気候工学は効果と副作用で大きな不確実性があるため、様々な因子を正確に考慮したシナリオを用いた大規模モデル相互比較の必要があります。このような研究2017年の活動では可能になり、2022年度まで続けてきました。
私の研究テーマは現在の地球に限らず、初期地球大気や系外惑星大気の研究も行っている。
太陽系外惑星の発見や、火星等の太陽系探査の進展に伴い、生命を宿す惑星の探索が始まっている。生命を生み出す惑星環境とは何かを探求する「生命惑星化学」の創成を目指し、酸化還元状態による惑星環境の炭素種多様性(CO2/CO/CH4)を探索する。中でもCOに富む惑星環境(CO world)において、いかなる生命過程・化学過程が起こりうるのかを明らかにする研究を行っている。
地球工学における副作用の予測、大規模火山噴火における大気冷却効果やオゾン破壊
自作大気モデルと反応速度論計算の合流
大型計算機
地球温暖化対策を今後のビジネスとして考えている企業
SO2 photoexcitation mechanism unlocks historical record of climate-impacting volcanism. S. Hattori, J. A. Schmidt, M. S. Johnson, S. O. Danielache, et al., PROCEEDINGS OF THE NATIONAL ACADEMY OF SCIENCES OF THE UNITED STATES OF AMERICA, Under Revision, 2012.