電子分光法による気相原子・分子の衝突断面積・分光データの定量測定

装置・デバイス ナノテクノロジー 基礎・理論
キーワード
星野 正光

理工学部 / 物質生命理工学科

星野 正光 教授

概要

 近年の電子分光装置の高分解能化に伴い,物質間どうしの相互作用や化学反応が原子・分子レベルで探索可能となりました。孤立(気相)原子・分子の内部状態を探索する代表的な手法として電子エネルギー損失分光法・光電子分光法・光吸収分光実験などがあります。当研究室では,低エネルギー電子と気相原子・分子衝突における散乱角度を分けた電子エネルギー損失分光実験,真空紫外線を利用した吸収分光・光電子分光実験,および衝突において生成された正・負イオンの質量分析を用いることで,単純な希ガス原子であるHeや水素分子から,核融合プラズマ・プロセスプラズマに関連する分子,環境分子,生体構成分子に至るまでの様々な標的の内部状態(特に回転,振動,電子状態)に関する精密分光,および衝突断面積の定量測定を行っています。しかしながら,一般には当研究室のようなデータ生産者が企業・研究機関の方(データ利用者)と直接データについて議論することが困難な場合が多いのが現状です。そこで,当研究室はデータセンター(原子分子データベースグループ)に属し,より信頼性の高いデータの測定だけでなく,その測定値のデータベース化,さらにはデータ検索,データ収集と評価等を併せて行うことで,データ利用者のニーズに対応し,アクセスしやすい環境を作る工夫も行っています。

応用例

低エネルギー電子と気相原子・分子衝突における電子エネルギー損失分光法により測定された衝突断面積の定量値や真空紫外線を用いた光吸収や光電子分光データは,プロセスプラズマや核融合の周辺プラズマシミュレーション,上層大気における大気科学シミュレーションの入力データとして非常に有用となります。高精度な断面積データが無ければ,プラズマ中におけるプラズマ診断の評価や微細加工の反応レート等を見積もることができません。そこで,本測定で測定された基礎データをデータベース化し,データセンターから提供されることで,測定で得られた反応素過程のデータに裏付けされたプラズマプロセス,核融合科学,大気科学シミュレーションへの利用が可能となります。

今後の発展性

プロセスプラズマを用いた半導体製造における研究は,より低コスト・高効率のエッチング工程やリソグラフィ工程を目指し,新たに生成,合成された分子の基礎データが必要となります。また,近年注目されている核融合に関連した基礎データ(特に金属表面とプラズマの相互作用)についても基礎データは大変重要です。これら衝突断面積や分光基礎データに加え,これまでに当研究室にて十分蓄積されたデータに基づくスケーリング則の提案など,データ生産者の立場から新しく合成された分子や測定困難な腐食性分子に対する見積もりや支配的な反応過程についての提案が出来ると期待しています。

研究設備

高分解能電子分光装置(入射電子エネルギー範囲:1.0 – 400 eV、測定可能散乱角度:入射ビーム方向に対して1度~130度、エネルギー分解能~35 meV程度),正・負イオン検出用四重極質量分析器(HIDEN社), 分子線加熱装置, 温度可変紫外線吸収実験用気体セル, 複合型表面分析装置

共同研究・外部機関との連携への期待

プロセスプラズマ関連分子,核融合関連分子,環境関連分子等の電子分光法・VUV吸収実験・質量分析法による励起・電子付着・解離過程等の基礎データ,および電子分光法による衝突断面積の定量データを必要とする企業(半導体製造業やガス製造業等)・研究機関への測定依頼・データ提供・実験装置開発の助言等

関連特許・論文等

“Absolute cross section measurements for the scattering of low- and intermediate-energy electrons from PF3. I. Elastic scattering”, N. Hishiyama, M. Hoshino, F. Blanco, G. Garcia, and H. Tanaka, The Journal of Chemical Physics 147, 224308 (2017).

“Absolute cross section measurements for the scattering of low- and intermediate-energy electrons from PF3. II. Inelastic scattering of vibrational and electronic excitations”, N. Hishiyama, M. Hoshino, F. Blanco, G. Garcia, and H. Tanaka, The Journal of Chemical Physics 148, 084313 (2018).

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