歪んだ擬一次元四面体磁性鎖のマルチフェロイックな性質

マテリアル・リサイクル
キーワード

理工学部 / 機能創造理工学科

黒江 晴彦 准教授

概要

 マルチフェロイック物質 Cu3Mo2O9 では、約8K以下で大きな自発電気分極を伴った反強磁性相が実現します。この相ではスピン・キャンティングによる強磁性磁気モーメントが実現します。従って、この物質を用いると電気分極と磁化の両方に情報を載せる事が可能となります。この物質で記憶媒体を作ると、N 個の素子に 4N 種類の情報が載せられる事になります。
 当研究室ではこの物質の新奇な振る舞いを、理学の立場から実験・少数スピン系での計算機実験・理論的解析の手法を用いて研究しています。この物質では図(a)に示すように四面体構造が一次元的に連なる、幾何学的フラストレーションを持つスピン系が存在します。図(b)は、このスピン系が結晶の中に整列した状態を示しています。8K以下ではキャント反強磁性のスピン秩序と自発電気分極が共存するのが最大の特徴です。これらの特徴を理解するには、電荷再配列効果という新しい概念を導入する必要があると考えています。
 現在までに、この物質のミリグラム単位の単結晶試料を世界に先駆けて成長させることに成功し、磁化等の磁気的性質、誘電率や電気分極等の電気的性質、比熱等の熱力学的性質を実験的に研究してきました。中性子回折による磁気構造の研究や、非弾性散乱測定による磁気励起の研究なども行いました。今後は低温での放射光を用いた構造解析や、Raman 散乱測定によって格子系、電子系の情報を得たいと考えています。

応用例

この物質の特異な物性を理解する事を最優先に研究に取り組んでいます。

今後の発展性

パルス超強磁場、パルス中性子、放射光、多重極限環境での物性測定を行うための環境を整え、実際に測定を行うことで、この系の特異な物性を明らかにしたいと思います。

研究設備

SQUID(Superconducting QUantum Interference Device)磁束計、光散乱測定装置

共同研究・外部機関との連携への期待

学外の研究所、他大学の研究者とはパルス超強磁場、パルス中性子、放射光、多重極限環境での物性測定等の理学的な側面を研究したいと考えています。
産業応用に関してアイディアをお持ちの企業様がありましたら、物性に関する基礎データの測定・提供などを行うことが可能です。

関連特許・論文等

“Electric Polarization Induced by Neel Order without Magnetic Superlattice: Experimental Study of Cu3Mo2O9 and Numerical Study of a Small Spin Cluster” H. Kuroe et al., J. Phys. Soc. Jpn. 80 (2011) 083705. (2011 年 8 月、日本物理学会Editors’ choice 賞受賞)
“Hybridization of magnetic excitations between quasi-one-dimensional spin chains and spin dimers in Cu3Mo2O9 observed using inelastic neutron scattering” H. Kuroe et al., Phys. Rev. B 83 (2011) 184423.
“Enhancement of Magnetic Frustration Caused by Zn Doping in Quasi-One-Dimensional Quantum Antiferromagnet Cu3Mo2O9” M. Hase et al., J. Phys. Soc. Jpn. 77 (2008) 034706.
“Successive phase transitions to antiferromagnetic and weak-ferromagnetic long-range order in the quasi-one-dimensional antiferromagnet Cu3Mo2O9” T. Hamasaki et al., Phys. Rev. B 77 (2008) 134419.

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