リアルタイム制御による動特性向上手法

情報・通信 低炭素・エネルギー
キーワード
申 鉄龍

理工学部 / 機能創造理工学科

申 鉄龍 教授

概要

 機械・電気などのシステムの挙動特性は静的特性と過渡期と呼ばれる動的特性に分けられます。所望の性能を得るためには、システムの挙動を制御し、システムの定常状態における静的な指標だけではなく、過渡期における応答特性も精度よく制御しなければなりません。例えば、省エネや環境型自動車の開発が注目されていますが、エンジンの運転モードには従来の自動車より頻繁な始動や燃料カットなどのような過渡的な運転モードがはるかに多くなっています。このような過渡期における燃料消費やエミッション性能を日増しに厳しくなってくる法規制を満たすようにするためには、リアルタイムの動的制御が不可欠になります。一方、電子情報処理技術の革新的な進展に伴って、リアルタイム制御の可能性が益々広がっているので、いまのエンジンには従来では考えられないリアルタイム動的制御技術が組み込まれています。
 本技術開発の主な目的は、このような動的システムの動特性改善のためのリアルタイム制御技術の基礎理論開発と様々な実システムにおける応用技術の創出です。具体的には、以下の課題解決のための要素技術及びそれを統括した体系的な開発手法を提供します。
(1) 動的システムのモデリング手法 様々な実システムの数学モデルの構築手法の開発
(2) 動的モデルに基づくシステム性能解析手法 システムの安定性、振動特性、外乱抑制特性及びロバスト性などの性質を数学モデルに基づく解析・評価
(3) モデルベースの制御系設計手法 動的モデルに基づいてアドバンストな制御器設計手法の開発
(4) リアルタイム制御系テスト・検証手法 実システム制御系HILS(Hardware-In-the-Loop Simulator)、プロットタイプ検証実験システムの構築

図1. エンジン過渡応答制御実験システム

応用例

過去に以下のような開発例があります。
(1) ガソリンエンジンの過渡応答制御(委託研究)
(2) プラグイン電気自動車の燃費最小化制御(共同研究)
(3) ハイブリットトラックにおける協調制御(委託研究)
(4) 半導体露光装置マルチステージ同期制御(委託研究)
(5) グラビア―印刷機見当制御(委託研究)

今後の発展性

電子情報処理技術が飛躍的に発展しているなか、リアルタイム制御を実現するための要素技術は2、3年ごとに大きく進化します。この進化に伴い、高度且つ複雑な制御アルゴリズムのリアルタイム化が可能になり、制御による動特性改善の潜在的な可能性が広がりますし、応答特性が速いシステムにもリアルタイムの動的制御が可能になっています。

研究設備

dSPACEコントローラ、低慣性ダイナモ、MicroAutoBoxII(車載用制御プロットタイプコントローラ)、エンジン過渡実験ベンチ、ハイブリット自動車ドライブライン制御実験システム

共同研究・外部機関との連携への期待

  • 実システム背景を伴う制御系設計手法開発に関する委託研究、共同研究

関連特許・論文等

[1] K. Suzuki, T. Shen, J.Kako and S. Yoshida, Individual A/F Estimation and Control with Fuel-Gas Ratio for Multi-cylinder IC Engines, IEEE Transactions on Vehicular Technology, Vol. 58, No.9, pp. 4757-4768, 2009
[2] J. Zhang, T. Shen and R. Marino, Model-based Cold-start Speed Control Scheme for Spark Ignition Engines, Control Engineering Practice, Vol.18, No.10, pp.1285-1294, 2010
[3] 申鉄龍、大畠明「自動車エンジンのモデリングと制御」コロナー社、2011
[4] 吉田、高木、申、武藤「セクショナルドライブ方式によるグラビア輪転印刷機のモデリングと見当制御」日本機械学会論文集C, Vol.74, No.742, pp.70-76, 2008

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