2023.07.21
理工学部 / 機能創造理工学科
谷貝 剛 教授
地球温暖化と二酸化炭素排出量増大が問題視されて久しく、電気エネルギーと同じクリーンな2次エネルギーである水素を用いた社会の実現が望まれています。水素は、燃やしても水しか排出しない上、燃料電池の燃料として電力発生にも用いることができますが、エネルギーとして利用するためには、消費地で「輸送と貯蔵」を行う必要があり、その形態として有望なのは、体積密度の大きな液体状態(-253℃)がよいとされています。
本研究室では超電導の電力応用を目指しており、
1.自然エネルギーや燃料電池が直流出力
2.超電導は直流で完全無損失
3.電気機器のほとんどは直流動作
4.水素貯蔵と循環を液体で行い、その冷熱を超電導機器の冷却に用いる
という特徴を組み合わせた「低炭素直流超電導電力・水素マイクログリッド」を提案しています(図1)。
電力供給は自然エネルギー等で発生した(不安定な)直流出力を超電導エネルギー貯蔵装置で平滑化し、超電導ケーブルでグリッドに供給します(図1の橙線)。一方、水素は電力供給と並行して液体状態で循環させる(青線)水素の液化電力も自然エネルギーや燃料電池で賄い、水素ステーションで高純度水素として供給します。直流電力は家庭や工場に供給され、従来多数のAC-DC変換を行って生じていた損失が、DC給電の変換回数の低減によって高効率(図2)となり、グリッド全体の低損失化に寄与します。
電力会社の巨大な交流系統に頼るのではなく、ビルや地域など、比較的狭い範囲で必要な電気エネルギーを炭素排出無しに発電・配電・消費するという、「エネルギーの地産地消」という概念が今後ますます重要になります。
○電気・水素マイクログリッド
離島や大消費地から離れた集落などにおいて、風力、太陽光発電によって発電し、その電力の一部を液体水素製造に、残りを直流電力として消費者に供給します。生活の足となる車は水素自動車で、ゼロエミッション化され、直流電力網と平行した液体水素輸送網によって、水素ステーションから燃料を供給します。まさにゼロエミッション集落が実現します。
原発事故の影響で、自然エネルギーを用いた発電方式の導入量は、今後大きく増加すると予測されます。
価格高騰が見込まれる化石燃料を用いた発電方式からの脱却を目指すには、電力会社から電力を購入するという従来のやり方を見直す必要があります。「エネルギーの地産地消」という考え方は今後の主流になると考えられます。
* T. Nakayama, T. Yagai, M. Tsuda, T. Hamajima, ”Stability analysis of high temperature superconducting coil in liquid hydrogen”, Physica C Vol.463-465,(2007)pp.1285-1288.