細胞生存因子に基づく疾患の病態理解と応用

ライフサイエンス 医療・医用
3:すべての人に健康と福祉を
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新倉 貴子

理工学部 / 情報理工学科

新倉 貴子 教授

連絡先 niikura@sophia.ac.jp

概要

ヒューマニン(Humanin)は、24残基のペプチド因子で、代表的な神経変性疾患であるアルツハイマー病における神経細胞死を抑制する因子として見いだされました。
ヒューマニンはアルツハイマー病の病態発生に中心的な役割を果たすアミロイドベータによるin vitroでの神経細胞死を抑制し、アミノ酸置換によって得られた高活性型誘導体は、1-10nMの濃度で完全な神経細胞死抑制活性を示しました。
さらに、私の研究室での検討により、この高活性型誘導体はアルツハイマー病モデルマウスの記憶障害を改善し、アミロイドベータの脳における蓄積も軽減することがわかりました。現在、当研究室では、ヒューマニンの様々な作用の詳細なメカニズムを解析しています。

応用例

ヒューマニンはアルツハイマー病以外にも、脳虚血や糖尿病のモデル動物でもその病態改善効果が報告されています。また、in vitroの実験結果から、プリオン病など、さらに多くの疾患に有効である可能性が示唆されています。

今後の発展性

上記のようなヒューマニンの特性から、ヒューマニンペプチドそのもの、もしくはその作用機序に関与する分子をターゲットとしたアルツハイマー病治療薬の開発が期待されます。また、近年の研究で、糖尿病とアルツハイマー病が相乗的な病態進行に関与することが徐々に明らかになっており、ヒューマニンがそのような複合的疾患にも有効である可能性が示唆されます。さらに、ヒトやマウスの血液中のヒューマニンの量は加齢により減少することが報告され、老化の進行度との関連性も示されています。生体内でどのような分子がヒューマニンの作用標的になっているかを解析することで、疾患の病態発生機序が明らかになるだけでなく、より有効な治療法開発や診断・予防への糸口をつかむことができると期待しています。

研究設備

細胞培養関連機器、共焦点レーザー顕微鏡、蛍光顕微鏡、クリオスタット、分子生物学的解析一般、生化学的解析一般、マウスの記憶学習試験

共同研究・外部機関との連携への期待

  • ヒューマニン類似分子の開発、他の疾患における細胞死抑制因子の探索、作用機序の解析
  • 生体内ヒューマニン及び類似分子の検出方法の確立とアルツハイマー病進行度の検出への応用
  • 生物由来機能分子や合成小分子の神経細胞およびマウスにおける作用解析

関連特許・論文等

  • Niikura T. Humanin and Alzheimer’s disease: The beginning of a new field. Biochim Biophys Acta Gen Subj. 2022; 1866(1):130024.
  • Murakami M, Nagahama M, Maruyama T, Niikura T#. Humanin ameliorates diazepam-induced memory deficit in mice. Neuropeptides, 2017; 62:65-70.
  • Niikura T, et. al. A Humanin derivative reduces amyloid beta accumulation and ameliorates memory deficit in triple transgenic mice. PLoS ONE, 2011; 6: e16259
  • Niikura T. Humanin, a potential peptide for neuroprotective therapy against Alzheimer’s disease. Expert Opinion on Drug Discovery, 2007; 2: 1273-1282
  • Nishimoto I, Matsuoka M, Niikura T. Unravelling the role of Humanin. Trends Mol. Med. 2004; 10: 102-106

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